「せいせき朝顔市」を支える人たち。180鉢に込めた想いと、44年続く夏の風物詩の舞台裏
7月4日㈯・5日㈰に行われた「せいせき朝顔市」。聖蹟桜ヶ丘の駅前に色鮮やかな朝顔が並ぶ。
今年で44回目を迎えたこの催しは、これまでも多摩市の夏を彩る風物詩として親しまれてきた。
来場者の目を引くのは、もちろんずらっと並ぶ朝顔だ。しかし、その一鉢が会場に並ぶまでには数か月に及ぶ管理と、生産者たちの地道な努力がある。
今回話を聞いたのは、多摩市・連光寺で朝顔を育てる萩原弘(はぎわら ひろし)さん。多摩市園芸部の部長として、長年にわたり朝顔市を支えてきた一人だ。かつて担い手が多かった時代も、現在の苦労も知る萩原さんに、朝顔市の舞台裏を聞いた。
1,000鉢を支えた時代から、5人で守る朝顔市へ
朝顔市が始まった頃、市内には20人以上の生産者が朝顔づくりに携わっていたという。
当時は一人50鉢ほどを出品すれば、全体で1,000鉢近い朝顔を用意することができた。
しかし現在、朝顔市に出品する生産者は5人になった。担い手の減少や高齢化の影響を受けながらも、朝顔市は形を変え続いている。
萩原さん自身も園芸部の部長を務めている。一度は役職を後進へ譲ったものの、栽培者の減少もあり再び部長を引き受けることになったという。萩原さんは「本当はやりたくないんだけどね」と笑うが、その言葉の裏には園芸部を絶やしたくないという思いが感じられる。
昨年の朝顔市では、全体の出品数が700鉢に届かず、人気の鉢は早い時間帯に売り切れてしまった。長年多くの方から親しまれている朝顔市だからこそ、朝顔を求めて訪れる方はかなり多い。多くの来場者に朝顔を届けるためには800~900鉢ほどは必要だという。
そこで今年は、生産者たちが力を合わせて約800鉢を用意した。背景には、萩原さんの「せっかく来てくれたお客さんには、選べるくらいの数を用意しておきたい」という思いがある。
一人でも多くの人に朝顔を届けたい。その言葉には、長年朝顔市を支え続けてきた人ならではの責任感がにじんでいた。
朝顔市は4月から始まっている
朝顔市に並ぶ800もの朝顔は、イベント直前に育て始めるわけではない。
萩原さんが種まきの準備を始めるのは4月20日頃。朝顔市当日に花を咲かせるため、品種ごとに種まきの時期を変えている。今年萩原さん育てたのは約180鉢。
暁、富士、団十郎、アーリーコール、ヘブンリーブル―、フライングソーサーなど、およそ8種類の朝顔を栽培した。
大輪系の品種は4月20日から種をまき始める。成長の早い西洋朝顔はそれより少し遅らせて、4月末頃に種をまくという。今年は5月上旬にも追加で種をまいたという。
朝顔づくりは、単純に種をまいて育てるだけではない。朝顔市当日に最も美しい状態になるよう、逆算しながら管理を続ける仕事でもある。
今年は5月時点で30度超えを記録するなど気温が高かった。その影響により例年より成長が早かったそうだ。
そのため、あげる水の量を少し抑えながら生育スピードを調整した。ところが、6月に入ると今度は梅雨の影響もあり雨が増え、暑さが抑えられた。雨が続くと、苗によってはなかなかつぼみを付けないこともある。天候次第で状況は大きく変わる。だからこそ、萩原さんの口から出た言葉が印象的だった。
「毎年やっていても同じようには育てられない。毎年が一年生。」
長年朝顔を育て続けてきた経験者であっても、毎年気候は変わる。気候に合わせて育て方が異なるため、ゼロから学び直す感覚があるという。そこに朝顔栽培の難しさがある。
花よりも大変な「つる」の仕事
取材していて最も驚いたのは、一番大変な作業が花ではなく「つる」の管理だということだった。
朝顔市直前の約2週間は、つるが一気に伸びる時期でもある。
一日に7~8センチ、品種によっては10センチ以上伸びることもあるという。
放っておけば、つる同士が絡まり合い、見栄えも悪くなってしまう。
そのためつるがよく伸びるこの期間は、毎日朝と夕方の2回、つるを支柱へ巻き付けながら整えていく。
朝顔のつるは上から見ると反時計回りに伸びる性質がある。一本一本の様子を確認しながら正しい方向へ導いていく作業は、地味だが欠かせない。さらに、つるは水分量によって折れやすさが変わってくる。
天候や水やりの様子を見ながら、つるの状態を確認し、毎日少しずつ形を整える。
「本音をいうと、手間がかかる品種は2,500円くらいにしたいね」萩原さんは笑いながらそう話す。
実際、朝顔づくりには種まきから水の管理、つるの誘引、病害虫対策まで、多くの手間と時間がかかる。それでも朝顔の価格を抑えつつ、多くの人に朝顔を楽しんでもらいたいという思いを大切にしている。
会場に並ぶ一鉢一鉢には、そんな生産者たちの手間と工夫、そして朝顔市を支え続けたいという思いが込められている。
地球温暖化と向き合いながら育てる
近年は地球温暖化の影響も強く感じるようになったという。
昨年の猛暑では、トマトやカボチャなどの野菜でも、強い日差しによって焼けるような症状が見られ、朝顔も葉が日焼けしたような状態になることもあった。そういった野菜や朝顔を守るため、日差し対策として遮光ネットなどの黒いネットでハウスを覆う方法もあるが、今度はその中で作業する時の暑さとの戦いになるという。
さらに虫との戦いも続く。つぼみの段階から虫が入り込み、花が咲く前に傷んでしまうこともある。
また、萩原さんは今年から土の見直しにも取り組んだ。昨年、一部の朝顔で実験的に培養済みの土を使ったところ、当初は思うように生育が進まず心配したものの、肥料の量を調整すると順調に育ち始めたことから、その成果を踏まえて今年はすべての朝顔で導入することにした。水やりも与えすぎれば根腐れの原因になり、少なすぎれば生育に影響する難しさがあるが、以前より乾きにくくなった土の特性もあり、多少水を上げる間隔が空いても問題なくなったという。
基本的に晴れた日は1日に1回、水を上げるが、曇りや雨などで土が湿っている状態であれば上げなくてもいいと萩原さん。水を与えるかどうかを判断する手段として鉢を持ち上げる方法もある。重さで土の水分量を確かめているのだ。
土がしっかり水を含んでいる鉢はずっしりと重く、水を与える必要はない。実際に鉢を持たせてもらうと、見た目に反して片手で持てるほど軽い鉢もあった。萩原さんによれば、そのくらい軽く感じる状態が水やりの目安になるという。
長年の経験があるからこそできる技術だが、それでも「毎年一年生」という言葉に象徴されるように、正解は毎年変わる。気候が変われば、土も、水やりの方法も、朝顔との向き合い方も変わっていくのだ。
5人の農家がつくる、5通りの朝顔
朝顔市の魅力は、花の美しさだけではない。
会場には5人の生産者が育てた朝顔が並ぶ。
品種が同じでも、育てる人によって姿や表情は少しずつ異なる。
人気の高いアーリーコールは、茎を見れば花の色の予想ができるというが、赤や青などの具体的な色味までは花が咲くまで分からない楽しさがある。
一方で、茶色がかった独特の花色を持つ団十郎は、種の確保そのものが難しい品種だという。他の朝顔と交配しないよう注意しながら種を残していく必要があるため、種はとても重宝される。
朝顔市で並ぶ一鉢には、花の色や形だけではなく、それぞれの生産者の工夫や経験が詰まっている。
だからこそ、会場は即売会であると同時に、生産者たちの作品展のような一面も持っている。
その裏には4月から続く準備があり、日々の水やりがあり、つるを整える作業があり、気候や虫との戦いがある。
44回続く朝顔市は、そうした生産者たちの努力によって支えられている。
担い手が減る中でも、「お客さんに朝顔を届けたい」という想いで育て続ける人がいる。
そのことを知ってから改めて朝顔を眺めると、一輪一輪が少し違って見えてくる。
今年も聖蹟桜ヶ丘の夏を彩ったせいせき朝顔市。
その美しさの裏には、朝顔を愛し、多摩市の夏の風景を守り続ける人たちの物語があった。

第44回せいせき朝顔市の様子
水不足により葉っぱの先端部分が黄色く変色している様子。
つるが支柱に巻き付いている様子
朝顔の花が虫に食われてしまっている様子

















































