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聖蹟桜ヶ丘 路地裏のパスタ屋さん MASCOT.(マスコット)

聖蹟桜ヶ丘駅前のにぎわいから一本裏へ入ると、空気がふっとほどける瞬間がある。住宅と小さな店が肩を寄せ合う路地の途中、やわらかな光を灯す一軒がMASCOT.だ。昼はパスタ屋さん、夜はお酒と黒板メニュー。けれど、この店を語るのに「イタリアン」「バル」といった言葉だけでは足りない。ここには、“変わらない”ことを選び続けてきた強さがある。今回はオーナーシェフの上野智文さんと、奥様のみなみさんにお話を伺った。

聖蹟桜ヶ丘・MASCOT.の魅力

2014年2月24日オープン。来月で12年目を迎えるMASCOT.。店を切り盛りするのは上野さんご夫婦で、日によっては智文さんのお母さまが手伝う日もある家族経営だという。店のリズムは、家族の暮らしと地続きだ。

白い壁と大きな窓からやわらかな光が入り、手書きの黒板や好きなものに囲まれた空間で、夫婦の笑顔と家族の日常のリズムがそのまま店の空気になっている——そんな安心感が、MASCOT.には漂っている。

川のそばで、ゆっくりやりたかった

開店前、物件探しでは下北沢など都心側も視野に入れていたという。「けれど、自然や川が近くて、ゆっくりやれるイメージが頭から離れず、たまたま出会ったこの物件はサイズ感もちょうどよく、近くには川。多摩に特別な縁があったわけではありませんが、店と一緒に引っ越し、いまは歩いて来られる距離に暮らしています」と智文さん。12年の月日の中でみなみさんのお腹が大きくなり、子どもを連れてお店に立ったり−−そんな毎日の暮らしの呼吸の中でシャッターを上げる生活が続いているという。

「MASCOT.」という名のお守り

店名は開店前から決めていたという。「MASCOT.」にはお守りのような意味合いがある。「短く、響きがよく、子どもにも覚えやすい。頭文字の“M”には芯の強さも感じる。ときどき”マスカット”と間違えられるけれど、それさえ愛嬌に変わっていくのが、この店らしさ」と笑う智文さん。

明るさと手触りのある空間

大きなガラス窓から光が入り、店内は健やかな明るさに満ちている。居抜きのつくりを活かしつつ、少しずつ集めた“好き”が並ぶ。飾られているものの中には、上野さんご夫婦が描いたイラストや、お客さんから贈られた品々もある。

手書きの黒板メニューは、ご夫婦の文字とセンスが息づく場所。季節や内容に合わせて書き替えられ、店の表情を静かに更新していく。その空間を息づかせているのが、いつも変わらない智文さんの料理の味とみなみさんのたおやかな接客。それぞれの役割とキャラクターが自然に溶け合い、居心地のよさを形づくっている。

昼は「パスタ屋さん」。日常にちょうどいい

「昼は”パスタ屋さん”と呼ばれるくらいが、ちょうどいい。」とみなみさん。子どもから年配の方まで、年齢層は幅広い。特徴は生麺パスタのもちっとした食感だ。味づくりの意識は「ぼやけさせない」と智文さん。ひと口目から輪郭が立ち、さりげなく効かせた“ひと技”が残る。一番人気の『クリームチーズとプチトマトの明太子パスタ』には、ほのかに和風出汁が効いている。

メニューは増やしすぎない。若干の変更はするが、基本は大きく動かさない。だからこそ、同じ味を求めて通い続けるお客さんがいる。「なくなったら困る」と言われるほど、定番は日常の基準になっている。

価格は1,000円(2025年2月時点)。ドリンク付き、現金のみ。お金の受け渡しも含めてシンプルにしたい、という考えからだ。混雑時は60分制。平日は短時間でさっと食べて仕事に戻る人が多く、週末には家族連れや近所の常連が会話を楽しむ姿が見られる。落ち着いた雰囲気と軽やかな回転。そのギャップが、生活の中にすっと入り込む。

夜は、距離の近い“まちの酒場”

夜になると、店は少し表情を変える。バーでもバルでもない、親密な酒場の顔。黒板には夜だけのメニューが並び、昼の常連が「夜のパスタを食べてみたい」と足を運ぶことも。海老のトマトクリームなど、夜限定の一皿が昼の記憶を更新する。この通りは店が連なり、冗談めかして「聖蹟ゴールデン街」と呼ばれることも。メインストリートの派手さではなく、裏の路地にだけ流れる時間。その温度に、MASCOT.の夜はよく似合う。

変わらないことが、時間をつなぐ

「夢は?」と聞くと、返ってくるのは大きな展望ではなく「変わらずが一番」。まちは変わるし人も増えた。でも、過剰に振り回されず、淡々と続けていく。
続けていると、不思議な再会が起きる。小学生だった子が成人し、「ここで初めてお酒を飲む」と戻ってくる。就職や引っ越しの節目に顔を見せ、「また来ます」と言って去っていく。久しぶりでも「久しぶりな感じがしない」。MASCOT.は、メニューや内装以上に、時間の安心感で人を迎えている。

川を渡ると、ほっとする。東京だけれど、どこか田舎のようで、気さくで温かい。そんなまちの質感が、そのまま店の空気になっている。今日もまた、同じ味を食べ、同じ場所から帰る。その繰り返しが、人の暮らしを静かに支えている。

 

Mascot. 上野智文さん・みなみさん


丘のまち物語/INTERVIEW ISSUE

多摩で暮らす人たちに軸を据えて、その暮らしぶりや思いなどを語ってもらいます。

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