重要無形文化財「木工芸」保持者 渡辺 晃男さんー多摩市民初! 人間国宝が誕生しましたー
重要無形文化財「木工芸」は、木材を用いて造形する多様な技法の総称です。豊富な樹種に恵まれた日本の木工は、原始時代に始まり、用具の普及や技術の流入などによって発展し、明治時代以後は木工芸の各技術分野に名匠が現れました。木工芸の技法には指物、刳物、挽物、曲物などがあり、その分野ごとに異なった素材を用いるなど、技術上の特色を有し、制作には素材の特色を生かし、狂いが生じないようにするため長期にわたる入念な工程を要します。木工芸は、芸術上価値が高く、工芸史上重要な地位を占める技法です。
渡辺晃男さんの作品は、木材にさまざまな加飾技法を用いた作品制作を行い、特に釘を使用することなく木材同士を組み合わせる指物と、木材に錫線・寄木・螺鈿などの異質なものをはめ込む象嵌(夜光貝、べっ甲などの輝きを素材にはめ込む技法)の技法が特徴的です。指物による箱の形、木取り、象嵌が一体となって木材の美しさを際立たせる、華やかで品格高いものとして、日本伝統工芸展などで高く評価されています。また日本伝統工芸展の鑑査委員を務めるなど、後進の指導にもご尽力されています。
多摩市ゆかりの木工芸家が語る、ものづくりの道
木との出会い、ものづくりの原点
幼いころから自宅には大工道具があり、自然と「ものづくり」が身近にある環境で育ちました。プラモデル作りに夢中になり、木工への興味の原点だったように思います。中学3年生の技術家庭の授業では、本来クラス全員で折り畳み椅子を作る課題でしたが、「自分の作りたいものに挑戦したい」と考え、ひとりで材木屋に足を運び、机を制作しました。完成した机を持ち帰ろうとした際に先生から「学校に残してほしい」と言われたその机は、中学校に寄贈することになりました。ものづくりの喜びを初めて実感した出来事でした。
木工芸の道へ
19歳のとき、初めて訪れた日本伝統工芸展で、展示作品の美しさと作家たちの技に深く感動しました。「いつか自分もここに作品を並べたい」と強く心に誓い、木工芸の道を志す決意を固めました。千葉大学木材工芸科卒業後は木工制作の修行を積み、工芸家としての基礎を磨きました。結婚を機に多摩市へ移り、それから41年間多摩市に住んでいます。なかなか木工芸品の制作だけでは食べていけないこともあり、市内の保育園に向けて椅子や机、おもちゃが入った仕切りなどを無垢材で制作しました。無垢材は、使うほどに味わいが増す一方で、定期的な手入れが欠かせません。納品後も子ども・親・職員達と手入れをしながら、心を込めて手を加えてきました。制作の際には、子どもの動きを実際に観察し、確かめながら作っています。こうして生まれた家具の多くは、今も使われています。
象嵌との挑戦、そして人間国宝へ
その後、第33回日本伝統工芸展で初入選を果たしました。当時の木竹工部会では「素材の美をそのまま生かす」ことが重んじられ、象嵌をしてはいけないというような空気があり、象嵌をする人がいなくなっていました。しかし、象嵌の可能性を信じて長年挑戦を続けました。その努力が実を結び、第61回・第65回の日本伝統工芸展で東京都知事賞を受賞。長年の探求と技の継承が評価され、重要無形文化財保持者(人間国宝)として認定されました。
木工芸に込める想い
木工芸は、木という素材と真摯に向き合い、その美しさを最大限に生かすことが第一義です。木目の流れ、形のバランス、象嵌との調和。それらを丁寧に見極めながら制作しています。恩師から「木が8割。自分は2割」と教わりました。その言葉は今でも大切にしています。「木を主役に据え、木を大切にする」それが私の創作の根幹です。工房には、何十年も前から眠っている木もあります。木取りの段階でおおよその構想はありますが、どの木目をどこに生かすかが決まるまで、作品づくりは始まりません。「何百年という時を生きてきた木々が内に秘めた美しさを引き出し、それを作品として形にする」その想いを、ひとつひとつの作品に込めています。
人間国宝として、そしてこれから
人間国宝に選ばれたときは、本当に驚きました。光栄であると同時に、「自分でいいのだろうか」という思いが込み上げました。これまでこの道を築いてこられた先達の方々の努力と作品を思うと、身の引き締まる思いでした。
これからも、受け継がれてきた技と文化を大切にしながら、少しでも先人たちに近づけるよう努力を重ねていきたいと思います。そして何より、人間国宝に選ばれた今、改めてものづくりの楽しさを多くの人に伝えることが使命だと感じています。また、技術を次の世代に伝えるためにも、伝統工芸で生計を立てていけるような環境が広がっていけばいいなと思っています。
市民の皆さんへメッセージ
自分の手を動かし、頭を使い、五感を働かせて何かを作ることは、本当に楽しいことです。うまくいかないこともありますが、だからこそ面白い。最初から何でもできる人はいません。できないことにぶつかり、それを乗り越える過程こそが、ものづくりの喜びだと思います。
4月にはパルテノン多摩で展覧会を予定しています。木工芸の魅力や、ものづくりの奥深さを感じてもらえる場になればうれしいですね。将来「自分もものづくりをしてみたい」と思ってくれる人が現れたら、こんなにうれしいことはありません。
※本インタビュー記事は、2025年に競技かるたで第69期クイーン位を獲得された矢島 聖蘭さんへのインタビュー記事とともに、たま広報2026年(令和8年)1月1日号に掲載しています。
●矢島 聖蘭さんのインタビュー記事(「丘のまち」)
●たま広報2026年(令和8年)1月1日号(市公式ホームページ)

重要無形文化財「木工芸」保持者 渡辺 晃男さん
ハートチェア
第65回日本伝統工芸展東京都知事賞受賞作品 黒柿蘇芳染嵌荘箱「西方の風」(くろがきすおうぞめがんそうばこ さいほうのかぜ)














































