風とキャラバン in 諏訪名店街
かつてのニュータウン開発で生まれた諏訪名店街。その一角に、まるで異国を旅しているかのような、不思議と落ち着くカフェが誕生。その名も「カフェ&バル 風とキャラバン」。高度成長期に整備された多摩ニュータウンは、時と共に人口構成が変化し、かつてのにぎわいが薄れた地域も少なくない。そんな中「風とキャラバン」は、単なる飲食店ではなく、地域に新たな“物語”を持ち込む存在として注目されている。商店街でふらりと足を止めた人が、いつの間にかライブに引き込まれていたり、たまたま隣り合わせた人と話が弾んだり。ここには、「予定調和」ではない偶然の出会いが満ちている。そしてその積み重ねが、商店街の空気を少しずつ変えている。今回は「風とキャラバン」のオーナーである神永大輔さんに話を伺った。
◉コンセプトは「まちの中の小さな旅」
「風とキャラバン」のオーナー神永大輔さんは、尺八奏者として国内外で活躍するプロミュージシャンでもある。幼少期にピアノを通して音楽の基礎を学び、大学在学中に尺八と出会う。その深い音色と表現の可能性に魅了され独学で習得、現在は現代的な編成で和楽器を演奏するユニット「華風月」や「和楽器バンド」のメンバーとして、ジャンルや国境を越えた音楽活動を展開している。音楽活動の傍、ツアーや旅先で感じた“場”の大切さや、人と人とがゆるやかにつながる空間への思いを強めていき、「音楽と日常が交差する場所を自らの手でつくりたい」と思うようになったという。神永さんが「誰もが旅人になれるような場所をつくりたい」と立ち上げたのが「風とキャラバン」だ。音楽や食事を媒介に人と人とが出会い、共に過ごし、風のようにまたそれぞれの場所へと帰っていく・・・そんな“キャラバン”のような営み。その循環をこの店で体現したいという願いが込められている。
「風とキャラバン」は神永さんの音楽人生と旅の記憶、そして生活そのものだ。「多摩というこの場所を選んだのは、僕が旅から必ず戻ってくる場所、家族と暮らす場所であるからです。旅に“出ていく”だけじゃなくて、誰かにとっての旅の目的地に自らがなることを始めたいと思いました。」と神永さん。音楽、旅、人との交流、家族、それらへの神永さんの思いが「風とキャラバン」という空間に結実している。店では企画・運営・料理・ライブ出演まで幅広く手がけ、「音・食・空間」のすべてに心を注いでいる。「お店の名前は以前僕が音楽活動の中でリリースしたアルバムタイトル「はじまりの風~CROSSROAD~風とキャラバン(株式会社2083)』からも着想を得ています。」と神永さん。
◉ 「風とキャラバン」の彩り
お店の内装の随所には、ウズベキスタンの古都「サマルカンド」から着想を得たモチーフが散りばめられている。青く輝くタイルのモスクと、やわらかな砂色の街並み。その風景にインスピレーションを受けて、空間全体が「青」と「ベージュ(砂色)」のコントラストで構成されている。アクセントに用いられたオリジナルの青は、神永さんのこだわりで塗装屋さんに依頼して調色された特注色。「ブルーグレーのような、浅葱色のような色なんですが、既製のペンキでは再現できなかったため、塗装屋さんに依頼してオリジナルで色を調合してもらいました。」と神永さん。風や水、空気の流れを思わせる淡さと透明感、そして遠い異国の青空を想起させる。
店内には色とりどりのステンドグラス風の小窓や中東風ランプが吊るされ、木の温もりを感じる家具とともにどこか旅先のバザールに迷い込んだような気分になる。「50年以上経ったレトロな商店街なので、スタイリッシュすぎると近隣の方が寄りつきにくい雰囲気になってしまうので、少し民族感をプラスすることで町並みにもなじみつつ、皆さんにも自然に受け入れてもらえるかなと思って作りました。一般的なカフェの雰囲気と民族的な要素を混ぜて、古いものも新しいものも、東のものも西のものも調和できるようなバランスを目指しました。」と神永さん。
存在感ある壁の大きな鏡、セルフサービスの水サーバーが置かれた足踏みミシン、チクタク時を刻む古時計、小上がりに並べられた彩豊かなクッションなど、細かなインテリアも、旅先やリサイクルショップなどで少しずつ集めた拘りのもの。その中で一際存在感を放っているのが店内に飾られている楽器たちだ。どれも神永さんにとって思い出深い大切なものだとか。フランス・ブルターニュ地方のハープ、ウイグルの弦楽器ケマンチェのほか、神永さんの奥さんが幼い頃から弾いていたというピアノも場に馴染んでいる。店内には小さなステージにもなる小上り席があり、定期的にライブが開かれる。出演者は神永さん自身の演奏に加え、地域のミュージシャンや旅人、時には海外からのゲストまで多岐にわたる。音楽が始まると、普段のカフェが一転してライブハウスへと表情を変える。灯りを落とし、客席が静かに集中しはじめるその瞬間は、まさに魔法がかかったような空気になる。「音楽って、言葉が通じなくても通じるんですよね。それは旅と似ていて。どこかの国で名前も知らない人と一緒に音楽を聴いていると、不思議とつながれる。ここでも、そんな感覚を大事にしたい。」そう語る神永さんの言葉どおり、ライブの日には、世代や文化を越えた“つながり”が空間を満たす。
◉朝から夜まで、ひらかれた時間
「風とキャラバン」の大きな特徴のひとつは、朝7時から営業していることだ。「諏訪のこのあたりは、朝の時間帯が一番賑やかなんですよ」と神永さん。遊歩道を散歩する住民の皆さんや、保育園や幼稚園の送り迎えするお母さん達、出勤前の方々からの “朝コーヒー1杯飲めたら”、”送りのあと、少しだけ自分の時間が欲しい”などそんな声に背中を押されて、朝の営業を始めたという。朝は軒先のテラス席が特に気持ちいい。お散歩帰りのコーヒー、ペット連れのひとやすみ、本を読んだり、使い方は自由だ。「雨の日に、ウッドデッキに座って、雨粒を見ながらぼーっとするのもおすすめです。」と神永さん。
朝のピークが落ち着くと、ランチタイムに向けて準備が始まる。この店のもう一つのユニークな仕掛けが「日替わりシェフ制」である。曜日ごとに異なる料理人がキッチンに立ち、それぞれのバックグラウンドや得意料理を生かしたメニューを提供する。家庭料理、ベジタリアン、アジアごはん、イタリアン、スパイス料理…、玄米ベーグルランチなど、毎日違う顔を持つ「風とキャラバン」は、まさに“キャラバン”のように多彩な個性を受け入れている。「料理をつくる側も、食べる側も、もっと自由でいい。完璧なシェフじゃなくても、自分の“好き”を誰かと分かち合う場があってもいいんじゃないかと思ったんです。」と神永さんは語る。飲食のプロに限らず、地域の料理好きな人がチャレンジする場にもなっており、まさに「地域に根差す循環型の食文化」を育てている。「風とキャラバン」の料理には、ひと皿ひと皿に“ストーリー”がある。それは料理人の暮らしのなかにある物語であり、素材の背景にある畑や農家の想いでもある。料理を介して、人と人、季節と風土がつながっていく。それはまるで、旅先で誰かの家にふと立ち寄った時のような温かさがある。
そして、夜にはバータイムとしての顔を見せる。厳選したクラフトビールやワイン・日本酒の他、ハーブやスパイスを漬け込んだ特製リキュールで作るオリジナルのカクテルなどを片手に、旅先で仕入れたスパイスや地元の旬野菜を使った小皿料理が並ぶ。音楽が静かに流れ、話す声が程よく溶け合う店内は、ひとりでも誰かとでも、安心して居られる心地よさに満ちている。朝から夜まで、さまざまな人が、それぞれの時間にふさわしい過ごし方を選べる。
◉「風とキャラバン」旅はまだ始まったばかり
「風とキャラバン」本格的オープンは2025年9月から。8月末〜9月初旬にかけてオープニングイベントを予定しているという。「試行錯誤しながら、風のように変化し続けるお店であれたらと思います。将来的には商店街全体を巻き込んだイベントや、遊歩道・公園を活用した取り組みも視野に入れています。」と神永さん。「風とキャラバン」は、まだ旅の途中。でも、もうすでに風は吹き始めている。日々の生活に少し疲れたとき、誰かと語りたいとき、静かに音楽を聴きたいとき、もちろん理由なんてなくてもいい。ただふらりと足を運べば、やさしい食と音、そして人との出会いが、きっと心をほぐしてくれるはずだ。さあ、キャラバンに乗り、自由な風を感じに行こうではないか。
【カフェ&バル 風とキャラバン】
住所:〒206-0024東京都多摩市諏訪5-8-5
アクセス: 京王/小田急線「永山」駅より徒歩15分またはバス5分「諏訪幼稚園前」下車すぐ
席数:テーブル12席、カウンター6席、
半個室(小上がり)1席 3~8名、テラス席 2~4名
※イベントや貸切の際はレイアウト変更あり
お支払い:現金・クレジットカード各種・
QRコード決済・交通系電子マネー 対応可
駐輪スペース:あり (諏訪名店街駐車場)
ベビーカー:OK
予算: 1000円~3000円
◆ 風とキャラバン 公式インスタグラム
https://www.instagram.com/kazetocaravan/
※メニューやイベント情報を日々更新中

諏訪名店街 カフェ&バル 風とキャラバン










































