東京都立多摩桜の丘学園とボッチャ
多摩市聖ヶ丘にある東京都立多摩桜の丘学園では、来年に延期された東京2020パラリンピックの正式競技「ボッチャ」の魅力を発信し、地域の新たな取り組みとして注目されているのをご存知だろうか。
今回は同学園の高等部主幹教諭、高橋幹基さんにお話しを聞いた。
ボッチャとの出会い
同学園は都立特別支援学校として昭和60年に開校(当時の校名は「東京都立多摩養護学校」)、平成20年に現在の名称に変更された。現在、肢体不自由と知的障害の2つの教育部門に小学部から高等部まで、約370名が在学している。
11年前に同学園に赴任した高橋さんが指導している「肢体不自由教育部門」の体育授業でボッチャを授業に取り入れだしたのは、2020年の東京オリンピック・パラリンピックが決まる前のおよそ8年前のこと。教員の研修でボッチャを体験したのがはじまりだった。
「自分たちの学校の授業でもすぐに取り入れることが出来そうだなと思いました」と高橋さんは当時を振り返る。その後、授業に取り入れると生徒たちもすぐにその魅力にハマっていったそうだ。
ヨーロッパ発祥の「ボッチャ」は、もともと重度脳性麻痺者や同程度の四肢重度機能障がい者のために考案されたスポーツだが、近年は年齢・障害の有無に問わず、誰でも楽しめるユニバーサルスポーツとして人気だ。
ルールは、はじめに目標となるジャックボール(白い球)を投げ、赤と青のボールを交互に6個ずつ投げ、終わった時点でジャックボールに近いチームに得点が入る。投げる順番や投げ方によってゲーム展開が複雑になる戦略的な競技だ。
高橋さんは「最初は気軽にはじめていた生徒たちも、公式の競技ルールに沿ってみると、その難しさが徐々に分かってきました。『こうなった場合、どうしたらいいのだろうか』など、子どもたち自身で考えることにつながりましたし、さらに技術を高めないといけないなという気持ちにつながりました」と話す。
現在、同学園の「肢体不自由教育部門」にはパラスポーツ部があり、陸上競技部、ハンドサッカー部に次いで、ボッチャ部も新設された。
ボッチャについて専門的な知識がない中で、パラリンピックの競技映像を見たり、パンフレットに載っている選手のフォームを見たりしながら、調べていく中で技術を吸収。少しずつレベルアップしていったという。
ボッチャ交流会から地域のスポーツに
そんな中、平成29年に同学園の生徒たちと蓮光寺、聖ヶ丘地区の地域住民の皆さんが「ボッチャ交流会」を開催。参加者からも好評を得て、一昨年からは毎年秋に開催される「連光寺・聖ヶ丘地区青少協スポーツ大会」の正式種目として採用された。
また、昨年7月には同学園のボッチャ部が、東京都障害者スポーツ大会に初出場し、準優勝という好成績を残した。さらに昨年10月には、同学園で「ボッチャ2020TAMAカップ プレ大会」が開催され、市内から29チーム、約300名が参加し、大いに盛り上がったという。
表彰式では高等部の生徒たちが作った手作りのメダルが授与された。石膏で作った手作りのメダルだが、同学園のオリジナルキャラクター「さくらちゃん」があしらわれたそのメダルに最後の表彰式では、手にとってみなさん喜んでいたそうだ。
「それまでは地域の皆さんと、スポーツを一緒に出来るということは想像できませんでした。ボッチャは年齢関係なく、誰でも楽しめる競技。地域の方と一緒にできるのは、本当に素晴らしいことです」と高橋さんは嬉しそうに話した。
来年のパラリンピック開催を信じて…
本来なら東京2020オリンピック・パラリンピックが今年開催される予定だったが、新型コロナウイルスの世界的な感染拡大により、来年に延期された。
当初は、今年6月に「ボッチャ2020TAMAカップ本大会」が開催され、オリンピック・パラリンピックの開催時には、多摩市が企画するイベントに、同学園の生徒による焼き菓子店の出店も企画されていたそうだ。
しかし、同学園も今年3月から断続的に休校となり、6月下旬からようやく一斉登校が再開したものの、今年予定していたスポーツ大会や、学校行事は全て中止となった。
肢体不自由教育部門の部活動としては、まだ活動再開のめどは立っていないものの、体育の授業ではボッチャをはじめとするオリンピック・パラリンピックの競技に、児童・生徒たちも意欲的に取り組んでいるという。
高橋さんは「まずは『新しい生活様式』として、児童・生徒が安全に授業を受けられるように、衛生的な環境を維持、管理するための対応をしています。オリンピック・パラリンピックの延期については、残念な思いでいっぱいですが、現在の状況を考えると、安全に開催できることを信じて、今できることをひとつひとつ積み上げていきたいです」と、来年の東京2020オリンピック・パラリンピックの開催に期待を寄せた。
東京都立多摩桜の丘学園の「ボッチャ」は、単にスポーツ競技としてだけではなく、生徒と地域の人々をつなぐ、新たな「コミュニティ・スポーツ」として、今後も拡がりを見せることだろう。
- 学校名
- 東京都立多摩桜の丘学園
- 住所
- 東京都多摩市聖ヶ丘1-17-1
- URL
- http://www.tama-sh.metro.tokyo.jp/