TAMA tumuji WERKS.|サロン・カフェ・ブルワリーが交差する場所。
多摩市諏訪、馬引沢通り沿いにひっそりと佇む一軒の店。看板には「PARLOR coffee/pastry/beer」(パーラー コーヒー・ぺストリー・ビール)の文字。その奥の扉には、「TAMA tumuji WERKS.」(タマツムジワークス)のロゴが掲げられている。
店内に入ると、右手前には小さなブルワリー室が構えられ、ステンレス製のビールを発酵させるための醸造タンクが整然と並んでいる。視線を奥へ向けると、打ちっぱなしのコンクリートの天井が印象的な広い空間に、木のテーブルやベンチがセンスよくゆったりと配置されたカフェスペースが広がる。そして、その最奥には、静かな美理容サロンが控えている。
ここは、サロンでもあり、カフェでもあり、ブルワリーでもある。しかし、どれか一つの顔に収まりきる場所ではない。
──このユニークな空間の仕掛け人が、今回話を伺ったオーナー・市川格(いちかわ かく)さんだ。
◉ 地元・多摩に場をひらくという選択
10代から美容の道に入り、30歳で独立を選んだという市川さん。多摩を選んだ理由を尋ねると、「生まれ育ったまちなので、場所を選んだというより自然にここに根を張った感じです」と語る。
散歩途中に空いていたこのテナントを見つけ、ピンときたという。居酒屋だった居抜きの広いスペースを、同じく美容師である妻aoiさんと共に借り開業。当初は美容室だけだったが、のちに理容師免許も取得。現在は美容・理容の両方に対応するサロンとして、ご夫婦で営んでいる。
「壊してみたら、元の天井と床が出てきて、それが思っていた以上に広くて(笑)。“美容だけじゃないこともできるかも”と思ったのが最初の分岐でした。」
その分岐点から生まれたのが、空間の多様な展開だ。しかし市川さんは、「それでも自分たちの原点は髪を切る仕事。他のことは、それが得意な人、好きな人に任せられたら」と静かに語る。土台には、サロンという生業への揺るがぬ誇りと信頼がある。
◉ コーヒーからはじまる、小さな変化
カフェスペースが生まれたきっかけは、サロンの施術中の“待ち時間”だった。「カラーやパーマの待ち時間に、せっかくならおいしいコーヒーを飲んでもらいたくて」。最初は懇意にしていた幡ヶ谷の名店「PADDLERS COFFEE(パドラーズコーヒー)」の豆を使用。現在は、同店を“原点”としながら、オリジナル焙煎の豆を使ったコーヒーを提供している。
家庭的な焼き菓子もメニューに加わり、今では地域の人々がふらりと立ち寄る“まちの喫茶”『PARLOR 』として定着している。

髪を整えにきたついでにお洒落なカフェでお茶……そんな光景を想像してしまうが、「案外、美容室に来る人は美容室に。カフェに来る人はカフェに。それぞれが“混ざらない”のが、この空間の特徴かもしれません」と市川さん。
一つの建物に複数の営みがあるが、互いを侵食しないからこそ、独立性と自由さが保たれている。
◉ ビール醸造という「まちとの対話」
そして、もうひとつの柱となったのが、クラフトビール醸造だ。「カフェでビールも飲めたらいいね」そんな軽やかな発想から始まったが、気づけば本格的にのめり込んでいたという。
奥多摩の人気ブルワリー「VERTERE(バテレ)」から仕入れたビールをきっかけに、1年以上かけて醸造免許を取得。2024年からは、多摩市発の自家醸造クラフトビール『Bierernst』が本格的にスタートした。
「同じ材料、同じ分量、同じレシピで作っても味が違う。水なのか、温度なのか……見本を習って作ったものであっても、出来上がったものは違うビールなんです。奥が深いです。」
市川さんが特に力を入れているのが、多摩市産の農産物を使ったビールづくりだ。ブルーベリーやブドウなど、地元の作物を活かした季節ごとのフレーバーが生まれている。市内の農家さんが生産したブルーベリーを使用したオリジナルクラフトビール『ブルーベリーサワーエール』は、多摩市のふるさと納税返礼品にも採用され、「まちの顔」としての広がりも見せている。
今はトマトのビール作りに挑戦しているという市川さん。今後もどんな味が出来上がるのか楽しみだ。
◉これからの時間と空間の広がり
「若いころは、社会貢献とか地域とか、ちょっと照れくさくて考えたことなかったです」
そう話す市川さんだが、子どもが生まれ、仕事を続けるなかで、地域とのつながりは自然と深まっていった。そしてビールづくりを始めたことで、その接点が一気に加速しているという。
今後は、理美容・コーヒー・ビールに加え八百屋・花屋が共存するような複合施設の構想もあるという。醸造所の見学や、地元農家との連携も視野に入れながら、地域と若い世代をつなぐ試みを広げていく。「作物をつくった人も、ビールをつくる僕らも、それを飲んでくれる人も、みんなが嬉しくなる。そんなサイクルができたら最高だと思うんです」
この空間がつむじ(tumuji)のように起点となり、人と人、土地と土地とをゆるやかにつないでゆく。そこから生まれた渦は、少しずつ、しかし確かに、多摩のまちに広がっている。
◾️ TAMA tumuji WERKS. 美容室|理容室
◾️ PARLOR カフェ
◾️ Bierernst クラフトビール
〒206‑0024 東京都多摩市諏訪1‑9‑4
営業:10:00〜18:00
定休日:火・水曜日


TAMA tumuji WERKS.オーナー 市川 格(いちかわ かく)さん














































