諏訪2丁目住宅マンション建替事業(Brillia多摩ニュータウン)
合言葉は「安心して住み続けられる街づくり」
多摩市諏訪2丁目。京王線・小田急線の永山駅からほど近いこの場所に、大規模マンション「Brillia多摩ニュータウン」は建っている。総戸数1,249戸のこの巨大なマンションは単なる新築のマンションではない。かつて、多摩ニュータウンで最初期の入居物件であった諏訪2丁目住宅の建替えにより2013(平成25)年に誕生した新しいマンションである。日本最大のマンション建替えとされるこの事業を成功に導いた1人である、加藤輝雄さん(元 諏訪2丁目住宅マンション建替組合理事長)にお話を伺った。
この場所に住み続けるための選択
「諏訪2丁目の建替えは住民運動です。住民パワーで街づくりを成し遂げたことが特徴です。」と加藤さん。一般的には建物の老朽化や耐震の問題、住人の高齢化に伴うバリアフリー化への対応などがマンション建替えの動機となるが、諏訪2丁目住宅では、こうした課題が顕在化する以前の、築20年にも満たない早い時期から建替えの検討が始まったのだという。ではなぜ、建替えを検討するようになったのだろうか。その答えは多摩ニュータウン建設の背景にあった。
かつての諏訪2丁目住宅は、総戸数640戸の分譲団地として1971(昭和46)年に完成した。当時は、東京圏の人口増加に伴う住宅不足に緊急に対応するために、標準的な間取りの住宅を大量に供給することが最優先という時代で、1戸あたりの面積はすべて48.85平米であった。「入居者の多くは当時30〜40歳代で、子どもが成長していくうちに、もっと広い住居を望むようになってきました。しかし、経済的にすべての住人がライフステージにあわせて住み替えていく、いわゆる“住宅すごろく”のようにはいかないので、将来のことも考え、この場所に住み続けるための選択肢として建替えも含めた検討を始めました。」加藤さんは建替え検討のきっかけをこう語る。
20年間に渡る地道な活動
こうして始まった建替えの検討だったが、住民たちの前に法律という大きな壁が立ちはだかる。「多摩ニュータウンは計画的に造られた街であるがゆえに、法規制が厳しく、建築条件を定める都市計画に関する法律を変えない限り、増築や建替えが実現できないという状況でした。当時はまだ多摩ニュータウンの建設も途上ということで、法律を変えてほしいと陳情しても、聞き入れてもらえない状況でした。」加藤さんたちはこうした状況を踏まえながらも、住民主体の街づくりを実現するために、規制緩和を訴え続ける地道な活動を続けた。ようやく転機が訪れたのは2006(平成18)年のこと。諏訪地区の地区計画が都市計画決定され、建替えに向けて大きく前進した瞬間だ。「諏訪2丁目住宅の建替えは20年かかったと言われますが、法律を変えるのに15年かかったんです。捉え方を変えれば、法律のハードルが高かったがゆえに、住民が時間をかけていろんなことを考えることができたとも言えます。」加藤さんはこう振り返る。
マンションの建替えでは、一般的に、住民の「合意形成」がハードルとなることが多い。諏訪2丁目住宅のケースでは、検討を始めた当時、建替えの実現には所有者全員の合意が必要という厳しい法的な制約もあった。その後、2002(平成14)年に法改正により条件が緩和され、8割の合意で建替えられるようになったのだが、管理組合の姿勢はこうだった。「法的には8割で良いと言っても、諏訪2丁目住宅640世帯のうち120世帯が反対しても建替えできてしまうことになります。でも、これでは社会問題だと考えたので、限りなく100%に近いところまで合意を取ることを基本姿勢に、全住民が納得するまでとことん話し合いをしました。」加藤さんたちのこうした粘り強い取り組みにより、住民の意識も段々と高まり、最終的には99%以上の賛同を得たのだという。住民の総意としての建替えが決定し、街づくりの段階へと進んでいく。
住民のアイデアで街をつくる
「建替えは当初からスクラップアンドビルドではなく、街づくりを目指しました。住民が主体的、自発的に参加してこの街をつくったという自負があります。」加藤さんは強調する。街のプランニングに際しては、「まちづくりデザイン会議」を立ち上げ、住民に加えて大学教授などの専門家や行政も参画し、景観や自然環境、周辺環境にも配慮した設計となるように綿密に検討した。こうした地域貢献・地域開放の姿勢は近隣住民の理解と期待にもつながっていった。共用施設についても住民の要望を随所に取り入れ、例えばパーティールームのキッチンでは、調理台の高さひとつを取っても、女性たちが相談して決めたという。「10年・20年先を見据え、住民のアイデアで快適に暮らせる街を設計しました。この街づくりが希望となり、元気になった住民もいるんですよ。」と加藤さん。人と人をつなぐコミュニティスペースをはじめ、自然と調和した環境を活かしながら配置された広場やドッグラン、農園、さらにカーシェアリング、レンタサイクルなど、誰もが快適に暮らし、楽しむことができる工夫が盛り込まれているようだ。
これまでもこれからも住民が主役のこの場所で
「駅に近く、都心部へも電車で30分と利便性が高い上に、緑も豊富で住環境として素晴らしい。もちろんコミュニティも良好。ここは本当に素敵なところ。」と、この地域への愛着も建替え成功の大きな要因だという。諏訪2丁目住民のこの地域への愛着度が高いことを裏付ける事実がある。通常、マンションの建替えでは、建替え期間の仮住まいでの生活などを煩わしく感じ、他の地域に引っ越してしまう人も少なくないというが、諏訪2丁目住宅では、8割以上の住民が、建替え後のマンションに戻り住んでいるというから驚きである。また、住民同士の関係、コミュニティという点でもとても良好だといい、建替え後に新たに入居した600世帯の住民も含め、世代別の交流会や四季折々の行事が頻繁に繰り広げられる。住民によるサークル活動も30を数えるというから恐れ入る。「コミュニティで大事なのは誰でも参加できる仕組みです。それが達成感にもなり、良好な人と人の関係構築にもつながっていくんです。」加藤さんはにこやかに語る。平日の昼間にも関わらず、パーティールームには集まり談笑する人たち、敷地内の広場を駆け、斜面を活かしてそり遊びをする子どもたち、その傍らでやさしく見つめる親、そしてお年寄りたち。まさに住民が主役という言葉を表す、活気に満ち溢れた光景がこの場所には広がっている。
Brillia多摩ニュータウンの「まちびらき宣言」の最後に特に象徴的な一文がある。“私たちは、願いや希望を実現するために努力することが人間の素晴らしさだということを学んできました。共に希望を共有し、このまちを育んでいきましょう。”
加藤さんたち住民が主役のこの街の伝統は、これからも引き継がれていくことだろう。