「知って・愛して・多摩市 」Vol.7 多摩市のみどりがもたらす恵み(その2)

 一口には語れない多摩市の魅力を、それぞれの専門分野でご活躍の皆さんから、語っていただく「知って・愛して・多摩市」を始めました。

 7回目の今回は、前回に引き続き多摩市街路樹よくなるプラン改定委員会委員を務めていただいている、東京大学大学院農学生命科学研究科助教 曽我 昌史先生から見た「多摩市」です。ぜひご覧ください。

 そして、ちょっとでも興味を持ったら一度足をおはこびください。

 

多摩市のみどりがもたらす恵み(その2)

東京大学大学院農学生命科学研究科助教 曽我 昌史

 

 前回に引き続き、今回のコラムでは、身のまわりの緑が持つ様々な健康効果についてお話したいと思います。

身近なみどりと病気の関係

 緑に触れることは、一時的な癒しやリラックス効果をもたらすだけではありません。最近の研究から、日常的に緑と関わり合うことは、肥満や高血圧、糖尿病、うつ病、循環器系疾患などの発症を抑える効果があることが分かっています。2015年にシカゴ大学の研究チームは、カナダのトロント市内の街路樹(53万本)の分布データと、3万人を超える住民を対象にした健康に関するアンケート結果(健康状態の自己評価や心血管代謝リスクや精神疾患の度合いを聞き取った)を分析しました。その結果、街路樹が1街区当たり10本増えると、健康状態の自己評価が向上し、世帯年収が1万ドル増加する、あるいは7歳若返るのと同等の効果があることが分かりました。同じく1街区当たり11本の街路樹が増えると、その地区の住民の代謝性疾患(心臓病、糖尿病、肥満など)のリスクが低下し、健康状態の自己評価は顕著に増加したといいます。

 同様に、豪州クイーンズランド大学の研究チームは最近、ブリズベンの居住者約1000人を対象としたアンケート調査を実施し、緑地の利用頻度や利用時間が多い人ほど、高血圧になりにくい、抑うつ症状が低いことを突き止めました。彼らの試算によれば、一週間に30分以上緑地に訪問することで、うつ症状と高血圧の罹患率をそれぞれ7%、9%減少させることができるといいます。これらの病気には、多くの先進国で毎年多額の医療費が使われていることを考えると、都市緑地は医療費削減に大きく貢献できるかもしれません。この他にも、東京医科歯科大学が行った研究では、居住地周辺の緑地の量は都市住民の寿命と関連することも報告されています。こうしたことから最近では、予防医学(病気になった後にそれを治すことより、病気を防ぎ健康を維持するという考え方)の観点から、身近な緑地や自然体験の重要性が見直されています。

認知機能の向上

 最近の研究から、日常的に自然と接することは私たちの認知機能(記憶、思考、計算などの知的な能力)にも良い影響をもたらすことが、明らかになってきています。2008 年に米国ミシガン大学の研究チームが行った心理実験では、樹林地に一定時間滞在した人は、そうでない人と比べて、数唱課題(集中力や短期記憶力を測る課題)を行った際により高い正答率を示すことが報告されています。Kaplan が提唱した「注意回復理論」によれば、森や林など自然の中に身を置くことは、日常生活で酷使されている方向性注意(物事に対して向ける自発的注意)を緩和させる機能を持つとされており、このことが認知機能の一時的な向上をもたらしたと考えられます。

 また最近では、子供の発育の面からも、自然体験の重要性が認識されています。より多くの緑に囲まれて生活している子供は、そうでない子供と比べて、認知機能の発達がよりスムーズに進むことが分かってきたためです。バルセロナにある環境疫学研究センターの研究チームは最近、長期的な自然とのかかわりと子供の認知能力の発達の関係を調べるために、大規模なコホート調査(人口集団を追跡する疫学調査)を実施しました。その結果、小学校入学前・低学年のころに住んでいる環境の緑の豊富さが、子供の認知能力の発達に正の効果をもたらすことが分かりました。この他にも、学校周辺の緑の豊富さが、子供の学業成績に正の影響を及ぼすことを示すエビデンスも最近になって続々と出始めています。

緑を通して人と人との絆を深める

 身近な緑は、健全な社会(コミュニティ)形成にも貢献しています。例えば、普段から緑地へよく訪問する人は、全く訪問しない人と比べて、地域社会に対する連帯感・信頼感が強い、孤独な感情を持ちにくくなることが分かっています。さらに最近英国で行われた研究によれば、緑が多く緑地の利用が盛んになされている地域では、住民の地域社会に対する一体感が高く、その結果地域内で犯罪が起きにくくなることが示されています。こうした研究結果は、身近な緑が地域に住む人同士の精神的なつながりを維持するうえで大事な機能を果たしていることを示しています。

おわりに

 前回と今回の二回の連載を通して、都市の緑(緑地や街路樹)が持つ様々な健康効果についてお話しました。今回は紙面の都合上、自然体験と健康に関するすべての知見を紹介することはできませんでしたが、身近な緑や自然がいかに私たちの健康に良い効果をもたらすかについてお分かりいただけたのではないかと思います。幸い、ここ多摩市には身近な場所に沢山の緑が残されています。今後、緑と健康の関係を意識しながら街を歩くことで、それら身のまわりの緑に対する見方も変わるかもしれません。

東京大学大学院農学生命科学研究科 助教
曽我 昌史